オーストリア ウィーンの代表的なお菓子といえばザッハトルテ。フランツ・ザッハーが貴族のために考え、長きに渡り門外不出として守られてきたレシピ、その後のこのお菓子をめぐる運命・・・その高貴で秘密めいた部分がザッハトルテをよりいっそう魅力的に感じさせているのではないでしょうか。
濃厚で深みのある味わいと、気品のある姿はクリスマスのおもてなしにも。砂糖を入れずに立てた生クリームを添えてどうぞ。
ザッハトルテはチョコレートケーキと何が違うのですか?とレッスンでも質問がありました。ベースの生地はいわゆるチョコレートケーキですが、湯煎で溶かしたチョコレートを練り込み、アーモンドパウダーも加えた配合がより深い味わいをつくります。膨らませる要素は、ベーキングパウダーではなく、メレンゲ。キメの細かい泡を包みこませることで、しっとりとなめらかな生地に仕上がります。
ザッハトルテの特徴の一つが、生地にサンドされているアプリコット(あんず)ジャム。アプリコットの酸味がチョコレートによく合います。
古くは、ヨーロッパでジャムというとアプリコットジャムのことを指したと言います。あんずはヨーロッパの人々にとってとても身近な果物だったのだようです。焼き菓子の上がけに使うナパージュや、タルトの底に塗るのもアプリコットジャム。お菓子づくりにはアプリコットジャムが頻繁に登場します。あんずは日本では出回る時期も量も限られているのでそれほど身近ではないですが、その理由を知って納得です。
今回は少しでも郷土の味を感じたいとオーストリアの老舗ジャムブランド「ダルボ社」のアプリコットジャムを使いました。果肉をそのまま食べているような砂糖少なめのジャムは手作りのものに近く、ザッハトルテによく合います。旅に行けなくても、お菓子や材料からその土地や歴史を楽しむことも喜びの一つです。
ザッハトルテのもう特徴の一つが、上掛けのチョコレート。チョコレートケーキの上掛けはテンパリングしたチョコレートやコーティングチョコレートを使うのが主流ですが、ザッハトルテ独特のねっとりとして、少しザラザラとした食感はチョコレートフォンダンです。
通常チョコレートを溶かす時は温度に気を遣います。沸騰したお湯などにあてて溶かすと、油分が分離して質が悪くなってしまうからです。ですが、チョコレートフォンダンは鍋にチョコレート、砂糖、水を入れて直接火にかけて溶かします。すべてが溶けてツヤが出てきたらケーキにかけ、そのまま常温で2時間ほどおいて固まれば出来上がりです。
失敗から生まれたお菓子として有名なタルトタタンしかり、このお菓子は失敗からなのか、それとも多くの知識と経験を経て生み出されたものなのか・・・つくり出した人だけが知る謎。お菓子づくりをしているとつい思い巡らせ楽しんでいます。
ポルボロンはスペインのクリスマスやお祝いに欠かせない伝統のクッキーです。口の中で崩れないうちに「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン」と3回唱えることができると、幸せになれるという伝説があります。スペインではラードを使いますが、バターでもつくれます。
可愛くラッピングして、プレゼントにしても喜ばれます。
素朴な見た目のポルボロンですが、一口頬張るとふわっと香ばしい香りが広がります。
この懐かしい香りは?とふと思い出したのが「麦こがし」です。麦こがしは、麦や米を煎った粉を使いますが、同じようにポルボロンも薄力粉とアーモンドパウダーを煎ってつくります。美味しく作るには、この煎り加減がポイント。フライパンを中火にかけ、絶えず混ぜながらゆっくりと煎っていきます。少し薄茶色になり、香ばしい香りがしてきたらOK。バット移して冷まします。スペインと日本、距離は離れていますが何か親近感がわくお菓子です。
粉類を煎ってしまえば、あとは簡単です。クリーム状にしたラードまたはバターに粉砂糖と粉類、スパイスを合わせてひとまとまりにすれば生地の出来上がり。
クリスマスの季節は何かと忙しい時期。少しでも手間を省きたいと考えたのがこの方法。ラップに包んで1cm厚みにして休ませれば、打ち粉をして麺棒で伸ばす必要もありません。あとは抜き型もしくは包丁で好きなサイズにカットして焼くだけ。ひと手間を省いて、幸せを運ぶポルボロンをたくさんの人に配る裏技です(笑)