秋から冬に移り変わるこの季節になるとウィーンのお菓子が恋しくなります。
かつてハプスブルク家とともに栄えた都で生まれたお菓子は、華やかではないものの、洗練された佇まい。シンプルなレシピと素晴らしい配合のバランスで作られた美味しさに歴史の深さを感じます。
ウィーンのお菓子というとザッハトルテを思い浮かべる方も多いかと思いますが、今回ご紹介したのはMohntorte モーントルテ。「Mohn」は芥子の実、「Torte」は丸型のお菓子の呼び名です。
オーストリアには芥子の実を使ったパンやお菓子がたくさんあり、このモーントルテはその代表格。真っ黒な切り口とプチプチとした口当たりが楽しい焼き菓子です。
日本で芥子の実というとあんぱんの上に飾ってある白い粒々のイメージですが、中東からヨーロッパでは黒いブルーポピーシードが主流です。芥子の実をすりつぶして砂糖や牛乳で煮たペースト(モーンマッセ)もあり、日本の餡のようにパンに入れたり、ケーキに練りこんで焼き上げたり、様々な形で親しまれています。本来モーントルテもこのモーンマッセを使いますが、日本では手に入りづらいので今回は粒を使用しました。芥子の実を軽く煎ってミルやすり鉢で荒くすりつぶし、あたためた牛乳でふやかします。プチプチという食感が少し残っているくらいに擦るのがポイントです。
オーストリアのお菓子はメレンゲを使ったものが多いように思います。モーントルテもベーキングパウダーは使わずに、メレンゲの力で膨らませて焼き上げます。バター、粉砂糖、卵黄、芥子の実、薄力粉を合わせた生地にメレンゲを合わせたらすぐに型に流して焼きます。時間が経つとバターの油分でメレンゲの泡がどんどん消えてしまうからです。膨らみ方が浅いですが見た目よりもずっとしっとりした生地に仕上がり、なめらからな食感が楽しめます。生クリームをたっぷりと浮かべたコーヒーと相性抜群です。
カイザーシュマーレンは「皇帝のオムレツ菓子」の名のついた有名なデザート。パンケーキの生地にメレンゲを合わせてふわふわに焼き上げ、フライパンの上でカットしてレーズンと砂糖、バターを加えて仕上げます。温かいままいただくデザートが多いのもウィーン菓子の特徴です。
サクリスタンはパイ生地を棒状にねじったお菓子です。教会の道具の管理者の杖の形を模し、この名がつきました。今回は芥子の実を周りにまぶし、シックな見た目のサクリスタンに。プチプチとした食感と香ばしい香りがクセになります。